実務を知らない上司の無茶ぶりから心と時間を守る生存戦略


「現場も知らないくせに、口だけ出すなよ……」
新しい施策の説明会。ホワイトボードの前には、ほとんど現場を見に来ない部長。
その口から出てきたのは、状況を踏まえた相談ではなく、あっさりした一言でした。
「じゃあ、このスケジュールでいけるよね?」
どう見ても工数オーバー。現場の人数も、繁忙期の忙しさも、まともに把握されていない。
それでも、その場の空気を壊したくなくて、誰もハッキリ「無理です」とは言えない。
そして結局、会議が終わったあとにしわ寄せをかぶるのは、いつものように現場側の私たちでした。
想定どおりにいくはずのないスケジュールを「何とか回す」ための残業
現場の事情を一から十まで説明しないと伝わらない虚しさ
「ちゃんと説明してよ」と逆ギレされる理不尽さ
あの頃の私は、疲れよりも先に、じわっとした虚無感のほうが強かった気がします。
心の中では何度も、こんな毒づきを繰り返していました。
「上から目線で指示する前に、一回現場やってみろよ」
ただ、あるときふと気づきました。どれだけ心の中で文句を言っても、
- 上司の仕事観や価値観は、そう簡単には変わらない
- 組織の人事ローテーションの仕組みも、私一人ではどうにもできない
冷静に考えれば、「上司を変える」って、ほぼ勝ち目のない勝負なんですよね。
それなのに私はずっと、「わかってくれない上司」に期待し続けていました。「いつか理解してくれるかも」「ちゃんと説明すれば伝わるはずだ」と信じて、何度も丁寧に提案資料を作り、説明を重ねては空振りする。そのたびに、自分だけが消耗していきました。
今振り返ると、あの時間とエネルギーを、自分のキャリアと市場価値を守ることに使ってこなかったのは、大きな失敗だったと感じています。
この記事では、
について、私自身の失敗談や、あとから調べてわかったことも交えながらお話ししていきます。
ここでお伝えしたいのは、上司をやり込めるテクニックではありません。もっと地味で、もっと確実な、「自分を守るための生存戦略」の話です。
読み終わる頃には、
「このまま何も準備しないほうが、よっぽどリスクが高いかもしれない」
と、少しだけ視点が変わっているかもしれません。
同じように実務を知らない上司に振り回されている方の、ささやかなヒントになればうれしいです。
ではまず、実務を知らない上司のもとで、現場にどんなダメージが蓄積しているのかから、一緒に見ていきましょう。
実務を知らない上司の下で静かに進む“見えないダメージ”

正直なところ、「残業が増える」「仕事量が増える」だけなら、まだわかりやすいほうだと思います。
私があとから振り返って一番こわいと感じたのは、もっと静かで、外からはほとんど見えないダメージが、じわじわ蓄積していたことでした。
そのときはただ「忙しいだけ」だと思っていたのですが、あれは完全に、心と仕事のスタミナが削られていく前兆でした。
“プロとしての仕事”を分かってもらえない虚しさ
一番しんどかったのは、「ちゃんと考えて仕事をしているつもりなのに、そのプロセスも工夫も一切評価されない」と感じる瞬間でした。
たとえば、
- 現場でしかわからない制約を踏まえて、ギリギリまで効率化した手順
- クレームにならないように、文言や伝え方を細かく調整した対応
- トラブルを防ぐために、事前に根回ししておいた地味な調整
こういう“見えない仕事”ほど、実務を知らない上司には伝わりにくいんですよね。
会議の場では、出来上がったアウトプットの一部分だけが切り取られて、
「ここ、もっと簡単にできないの?」
「この手順、本当に必要?」
と、さらっと言われてしまう。
こちらとしては「それを省いたら絶対に現場が大炎上する」と分かっているのに、その前提を共有できない。
何度か同じようなやりとりを繰り返すうちに、
「自分の仕事の価値って、何なんだろう?」
「この人たちに評価されるために頑張る意味ってある?」
と、プロとしての自尊心が少しずつ削られていきました。
今思えば、本当はこの時点で「どこまでが自分の責任か」「どこから先は割り切るか」を決めておくべきだったのに、“わかってくれるはず”と期待し続けたこと自体が、私の小さな失敗だったのだと思います。
説明コストに奪われていく集中力と時間
「現場を知らない」こと自体よりも、正直つらかったのは、説明コストが異常に高くなることでした。
新しい施策や改善案を出すたびに、
- なぜその作業が必要なのか
- なぜその順番でやるのか
- なぜそのスケジュール感になるのか
を、一から十まで図解付きで説明しないといけない。
そこでようやくスタートラインに立てたと思ったら、今度は別の偉い人が資料の一部だけを見て、
「これ、もっと早くできない?」
と一言だけ。そこでまた、前提から説明し直し。資料も作り直し。
気づけば、本来のアウトプットを出すための時間より、「説明のための準備」に費やしている時間のほうが長くなっていました。
ある週の金曜の夜、ふとカレンダーを見返してみて、ゾッとしたことがあります。
- 日中は、上司や関係各所への説明・調整の打ち合わせで予定がぎっしり
- 自分の実務は、毎日18時以降の“残業タイム”に押し込んでこなす
「この1週間で、本当に“現場の仕事”をしていた時間ってどれくらいなんだろう?」
そう思った瞬間、どっと虚しさが押し寄せました。
本来、もっと大事な改善や勉強に使えたはずの時間を、「説得ゲーム」に費やしていたことに気づいたからです。
じわじわ削られていく“心のスタミナ”
怖いのは、限界が「今日から急に」やってくるわけではないことです。
少しずつ、じわじわと削られていくので、自分でも気づきにくいんですよね。
最初は、
- 「まあ今期だけだから」と自分に言い聞かせる
- そのうち、「どこの会社もこんなものだろう」と思い始める
- 最終的に、「自分が我慢すればいいか」と、諦めが日常になる
こうやって、自分で自分を納得させているあいだに、心のスタミナが静かにすり減っていきます。
私の場合、最初にサインとして出てきたのは、こんな小さな変化でした。
- 休日の夕方になると、理由もなく憂うつになる
- 仕事用PCの電源を入れるだけで、胸がザワザワする
- 仕事帰りの電車で、「明日も同じ説明をするのか……」と考えてため息が出る
当時の私は、「ただ疲れているだけだろう」と軽く見ていました。
でも今振り返ると、あれは完全に心の赤信号でした。
本当はこのタイミングで、
- 自分一人で抱え込んでいる仕事を洗い出す
- 「ここまではやるけれど、ここから先は上司の判断」と線を引く
- 信頼できる同僚や外部の人に、状況を言葉にして話してみる
といった小さな行動をしていれば、もう少し早くブレーキをかけられたのかもしれません。
- 実務を知らない上司のもとでは、残業そのものより「プロとして認められない虚しさ」が深いダメージになる。
→ 自分なりの工夫やプロセスが伝わらない状態が続くと、「この仕事に意味はあるのか」と自尊心が削られていく。 - 見えない仕事ほど説明コストが膨らみ、本来の業務より“説得の準備”に時間と集中力を奪われる。
→ 図解や資料づくりに追われるうちに、気づけば「現場の仕事」は残業時間に押し込まれてしまう。 - 「今期だけ」「どこも同じ」と自分をなだめるほど、心のスタミナは静かに削られていく。
→ 我慢を前提にしてしまうと、限界が近づいていてもブレーキをかけにくくなり、赤信号を見逃しやすくなる。 - 休日の憂うつやため息の増加は、ただの疲れではなく“心の赤信号”かもしれない。
→ 「自分だけが我慢していないか?」と立ち止まり、境界線の引き方や働き方を見直すタイミングだと受け止めたいところです。
なぜ“実務を知らない上司”が生まれ続けるのか

ここまで書いておいてなんですが、私も長いあいだ、
「いや、それでも上司にはもう少し現場を理解してほしい」
と、本気で思っていました。何度も資料を作り直して、説明の仕方を工夫して、「これなら伝わるかも」と期待しては空振りする。その繰り返しでした。
でもある日、ふと視点を変えざるをえない出来事がありました。
「この人たちは“知らない”んじゃなくて、“知る必要がない世界”で生きてきたんだな」
そう腹の底で理解した瞬間、妙な納得と同時に、「ここに期待し続けるのは自分をすり減らすだけかもしれない」という怖さも見えてきたんです。
日本型人事が生み出す“実務を知らない管理職”
多くの日本企業では、いまだに「メンバーシップ型雇用」と呼ばれる仕組みが主流だと言われます。
- まず「人」を採用し、あとから配属やジョブローテーションで仕事を割り当てる
- 部署を数年ごとに転々としながら、ゼネラリストとして育成していく
一見すると、「幅広い経験が積める良い仕組み」にも見えます。私も新人の頃は、そういう説明を聞いて「たしかに幅が広がりそうだな」と素直に信じていました。
でも、実際に現場側として関わってみると、もう少し違う景色が見えてきます。
- 一つひとつの現場に深く腰を据える前に、次の部署に異動になってしまう
- 本人は「何となく分かった気」になっているが、現場レベルの実務はほとんど経験していない
そんな状態のまま、役職だけが順調に上がっていく人も少なくないと感じるようになりました。
ある会議で、「前の部署でも似たような業務やってたから分かるよ」と言いながら、とんちんかんな指示を出されたことがあります。そのとき、
「ああ、この人は“少し触れただけの経験”を、“理解したつもりの経験”として積み上げてきたんだな」
と、妙に腑に落ちてしまいました。
つまり、
「現場を知らない管理職」は、個人の性格の問題というより、“システムが生み出した存在”でもある。
そう考えるようになってから、上司個人を責めたい気持ちは少し収まった一方で、「これは私が頑張っても変えられない構造なんだ」と悟るきっかけにもなりました。
プレイングマネージャー化が現場を見る余裕を奪う
そこに追い打ちをかけているのが、「プレイングマネージャー化」です。
人件費削減や採用難もあって、今の管理職は、
- 自分のプレイヤー業務
- 部下のマネジメント
- 経営層への報告・資料作成
これらすべてを、ほぼ同じ人数で回さざるをえない状況に置かれています。
「部長なのに自分も現場に出ているから偉い」という空気もあって、本人たちも休む暇がない。私の上司も、毎日のように会議と資料作成に追われ、社内チャットは常に未読だらけでした。
正直、「この人もこの人で大変なんだろうな」と思う瞬間もありました。
ただ、現場からすれば現実はもう少しシビアです。
- 目の前の数字や資料づくりに追われ、腰を据えて現場を見る余裕がない
- 部下から上がってくる違和感やリスクの声を、“ノイズ”として処理してしまう
こうした悪循環の結果、
「忙しいのは分かる。でも、そのしわ寄せを全部こっちに投げないでくれ…」
という、本音だけが現場に残っていきます。
私自身も、「上司も大変だから」と自分をなだめつつ、結局はしわ寄せを受け止める側に回ってしまったことが何度もあります。今思えば、“理解”と“自己犠牲”を混同していたのは、私のほうだったのかもしれません。
50代管理職の“過去の成功体験バイアス”
もう一つ、厄介だなと感じるのが「過去の成功体験」です。
今の50代前後の管理職の多くは、
- 終身雇用が前提だった時代に、「会社に尽くす」ことが正解とされていた
- 長時間労働で成果を出し、「根性がある」と評価されてきた
という背景を持っています。
だからこそ、
- 「自分の頃はもっと大変だった」
- 「やればできるはず」
という感覚から、なかなか抜け出せない。
結果として、現場の実情を細かく知らないままでも、
「とりあえずやってみよう」
「そこは工夫で乗り切って」
と、軽く言えてしまうのだと思います。
悪意があるわけではなく、「自分が通ってきた道」を、今の部下にもそのまま当てはめてしまっているように見えることもありました。
ここまでを踏まえると、ある意味では残酷ですが、今の私はこう感じています。
実務を知らない上司に「変わってもらう」ことに期待するのは、宝くじを当てるのに近い確率かもしれない。
昔の私は、ここでまだ「どうしたら分かってもらえるか」を考え続けていました。
でも、その発想にしがみついているかぎり、いつまでも“説得ゲーム”から抜け出せないままです。
だからこそ、今の私はこう考えるようにしています。
- 上司を変える方法
- 組織を啓蒙する方法
ではなく、
「そんな上司のもとでも、自分をすり減らさないためにはどうするか」
に、エネルギーを使ったほうがいい、と。
ここから先の章では、私自身が「諦め半分・防衛半分」で試してきた具体的なやり方を、失敗も含めてお話しできればと思います。
- 「実務を知らない管理職」は、メンバーシップ型雇用やジョブローテーションが生んだ“構造的な結果”でもある。
→ 個人の性格だけでなく、仕組みとして現場を深く知らなくても出世できるレールが敷かれている。 - プレイングマネージャー化で、上司は現場を見る余裕を失い、部下の声が“ノイズ扱い”されやすくなる。
→ 数字や報告に追われるうちに、違和感やリスクの声ほど後回しにされ、しわ寄せが現場に集中していく。 - 過去の成功体験バイアスにより、「昔はもっと大変だった」という感覚から抜け出しにくい。
→ 自分の時代の価値観を前提にしているため、「とりあえずやってみよう」「根性で乗り切って」が軽く出てしまう。 - だからこそ、「上司を変える」発想から、「その環境でも自分を守る」発想へシフトする必要がある。
→ 説得や啓蒙に全エネルギーを注ぐのではなく、自分の時間・メンタル・キャリアを守る仕組みに意識を向けたほうが結果的に楽になります。
無茶ぶり・丸投げから“自分の時間”を守る3つの防衛線

「上司や仕組みは、すぐには変えられないんだな」と腹の底で理解したとき、ようやく私は発想を変えました。
それまではずっと、
「どうやったら分かってもらえるか」
「どんなふうに説明したら、無茶な指示が減るか」
ばかりを考えていて、気づけば“上司を説得すること”に自分の時間とエネルギーを使い切っていたんですよね。
そこで一度、こう決めました。
戦う相手を「上司」から、「自分をすり減らす習慣」に変えよう。
ここからお話しするのは、私が実際に試して、完璧ではないけれど、少しずつ楽になっていった3つの防衛線です。
防衛線1:正面から戦わず“距離を取る自分”を許す
昔の私は、理不尽な指示が出るたびに、心の中で真っ向から反論していました。
「そんなの現場を知らないから言えるんだ」
「もっと状況を見てから発言してほしい」
頭の中では、完璧な反論スピーチを組み立てて、「次こそ言ってやろう」と会議に向かったこともあります。でも現実には、
- 会議で真正面からぶつかっても、まず勝ち目は薄い
- 仮に一度ねじ伏せられたとしても、「扱いにくい人」とラベリングされて終わる可能性が高い
何度か“正面衝突”をしてみて分かったのは、こちらだけが消耗する「割に合わない戦い」だということでした。
そこで私は、あるタイミングから「戦わない」という選択肢を自分に許すことにしました。
具体的には、
- 上司の発言を、一度すべて受け止めたように見せる
- そのうえで、「現場で調整してみます」と一旦持ち帰る
- 裏側で、現場が致命傷を負わないラインまで、ひっそりと調整する
というスタイルに切り替えました。
たしかに、グレーなやり方かもしれません。でも、
- 正面衝突で関係性を壊さない
- それでも現場と自分の心を守るラインは死守する
という意味では、私なりの「現実解」だったと感じています。
防衛線2:“やる気がない人”に見せずに『物理的に無理』を伝える
とはいえ、何でもかんでも言われたとおりに引き受けていたら、本当にこちらが潰れてしまいます。
昔の私は、
「このスケジュールはちょっと厳しいです」
「人手が足りません」
と、ふんわりした言い方で伝えてしまっていました。その結果、
「じゃあ、何とか工夫してみて」
「みんな忙しいからね」
と、軽く流されて終わり…ということが何度もありました。
そこで途中から意識したのが、
「感情」ではなく「物理条件」で話す ことです。
たとえば、
- 「このスケジュールはちょっと厳しいです」
→ 「作業Aに◯時間、作業Bに◯時間かかるので、どう逆立ちしても◯日までには終わりません」 - 「人手が足りません」
→ 「この人数だと1人あたり◯件/日になり、品質を維持できないためクレーム増加が避けられません」
というように、
- 工数や人数、件数を「見える数字」にする
- そのうえで、「どれかを減らす」「期限を延ばす」「人を増やす」の三択を提示する
という話し方に変えてみました。
すると、上司の反応も少しずつ変わってきました。
- 「やる気がないから文句を言っている人」ではなく
- 「物理的に不可能な条件を、冷静に整理している人」
として見てもらいやすくなったからです。
感情をぶつけるのではなく、「条件の問題」として並べるだけで、無茶ぶりが少し減ったのは、私にとって大きな転機でした。
防衛線3:ログを残し“自分を守る証拠”を常に確保する
もう一つ、あとから効いてきたのが「記録を残す習慣」です。
以前の私は、口頭でのやりとりだけで仕事を進めてしまい、あとになってから、
「そんなこと言ったかな?」
「そこまでの前提は共有してないよ」
と上司にひっくり返されて、モヤモヤだけが残る…ということが何度かありました。
それ以来、意識的にこんなことを始めました。
- 口頭指示を受けたら、必ずメールやチャットで「こういう認識で進めます」と文章にする
- スケジュールや優先順位の変更は、タスク管理ツールや議事録に残す
- 無茶ぶりの経緯も、「事実ベース」で淡々とメモしておく
これは、「上司を追い詰めるための武器」としてではありません。
どちらかというと、
「自分はやるべきことをやった」と、後から自分で確認できるようにするための安全装置
に近い感覚でした。
ログが残っているだけで、
- 「自分のせいでこうなったのでは?」という自責の念が少し和らぐ
- いざというとき、異動希望や転職活動で「何があったのか」を冷静に説明できる材料になる
という、じわっと効いてくるメリットもありました。
- 理不尽な上司と正面から戦うほど、こちらだけが消耗する“割に合わない勝負”になりやすい。
→ 勝ち負けよりも、「距離を取る」ことを自分に許したほうが、心と現場のダメージを減らせる。 - 「感情」ではなく「物理条件」で伝えることで、無茶ぶりを“条件の問題”としてテーブルに乗せられる。
→ 工数・人数・期限を数字で見せて、減らす/延ばす/増やすの三択にすると、やる気の問題にされにくい。 - ログを残すことは、相手を攻撃するためではなく“自分を守るための最低限の防護壁”になる。
→ 記録があるだけで、「ちゃんとやれることはやった」と自分で認められ、自責と不安に飲み込まれにくくなる。 - 上司や組織を変える前に、自分の時間とメンタルを守る“仕組み”を整える。
→ 完璧な解決でなくても、小さな防衛線を張ることで、日々の消耗を少しずつ減らしていける。
本当に怖いのは“上司の無知”より自分の市場価値が腐ること

実務を知らない上司のもとで働き続けることの、本当の怖さは何か。
それは、
上司の無能さに慣れてしまうあいだに、自分の「市場価値」が静かに腐っていくこと
だと、私は痛感するようになりました。
当時の私は、「この上司のもとでさえうまくやれているなら、どこに行っても通用するはずだ」と、どこかで自分を慰めていました。
でも、ある日ふと職務経歴書を書こうとして、手が止まったんです。
「…これ、外の世界から見たら“何をしてきた人”になるんだろう?」
その瞬間、背筋がすっと冷えました。
“社内仕様スキル”ばかり増えていく怖さ
実務を知らない上司の下で何年も働いていると、いつの間にかこんなスキルばかりが伸びていきます。
- AさんとBさんの間を取り持つ、社内調整力
- 上司の機嫌を損ねないように提案を“薄める”プレゼン能力
- 「波風を立てない」ために、本音を飲み込むコミュニケーション力
どれも、その会社の中で生き延びるにはたしかに必要なスキルです。
私も、これらをそれなりに使いこなせるようになって、「社内ではうまくやれているほう」だと勘違いしていました。
でも、あるとき冷静に考えてみました。
- 他社に行ったとき、このスキルはどれくらい評価されるんだろう?
- 転職エージェントに職務経歴を書き出したら、「具体的な成果」として語れるものはどれくらいあるんだろう?
そう自問したとき、胸のあたりがスッと冷たくなる感覚がありました。
気づけば、私は、
「この上司のもとで評価されること」=「世の中で通用するスキル」
だと、半分本気で思い込みかけていたんです。
本当は、社外でも通用するスキルが欲しかったのに、気づかないうちに“社内仕様の器用さ”ばかりを磨いていた。
これに気づいたとき、「このままここだけで通用する人間になってしまうかもしれない」という怖さが、ようやく現実味を帯びてきました。
“上司に合わせるのが上手い人”で終わってしまうリスク
もう一つのリスクは、
「上司に合わせるのが上手い人」ほど、変化のタイミングを逃しやすい
ということです。
- 無茶ぶりにも、何とか工夫して応える
- 不合理なルールにも、「そういうものだ」と自分を慣らしていく
こうして、「茹でガエル」のように少しずつ環境に適応していきます。
最初はちゃんと違和感があったはずなんです。
「このやり方、おかしくないか?」
「ここで現場に全部しわ寄せするのは違うのでは?」
でも、
- 「どこの会社も似たようなものだろう」
- 「上司が変わるまでの辛抱だ」
と、自分に言い聞かせているうちに、
「じゃあ、自分は本当はどうしたいんだっけ?」
という感覚のほうが、だんだん薄くなっていきました。
私もまさにこの状態で、ある時期から、
- 「上司が喜びそうな提案」
- 「会議が無難に終わる資料」
ばかりを考えるようになっていました。
そのうち、「自分はどうしたいか」よりも、「この場を荒立てないこと」が優先事項になっていたんですよね。
今振り返ると、それが一番怖かったなと感じます。
学習性無力感──『何をしても変わらない』と思い込む怖さ
心理学の世界では、
「学習性無力感」という言葉があります。
- 何をしても状況が良くならない経験が続くと
- 「どうせ何をしても無駄だ」と学習してしまい
- 行動する意欲そのものを失ってしまう
という現象です。
職場でこれが起きると、たとえばこんな流れになります。
- 改善提案をしても、いつも上層部で握りつぶされる
- 頑張っても評価されず、むしろ「余計なことをするな」と冷ややかに見られる
こうした経験が積み重なると、
「もう言っても無駄だし、言わないほうが楽だな」
と、本気で思うようになってしまう。
私自身も、最初は「それでも言うべきだ」と粘っていましたが、ある時期を境に、
会議で意見を求められても、“波風の立たない無難なコメント”だけを返す自分に気づきました。
そして、さらに怖いのは、この状態が長く続くと、転職市場に出ても自分の強みを語れなくなることです。
面接のイメージトレーニングをしてみたとき、思わずこんな言葉が頭に浮かびました。
「特に誇れる実績はありません」
「上司の方針に従ってきただけなので……」
そのフレーズを思い浮かべた瞬間、私はゾッとしました。
「このままだと、本当にそう答えてしまう日が来るかもしれない」と。
このタイミングでようやく、
「上司の無能さに怒っているうちに、自分の市場価値のほうが先に傷んでいく」
という現実を、直視せざるを得なくなりました。
- 実務を知らない上司のもとでは、“社内でしか通用しないスキル”ばかりが伸びやすい。
→ 社内調整や空気を読む力は大事だが、それだけでは職務経歴書に書ける成果や社外で通用する実績になりにくい。 - 「上司に合わせるのが上手い人」ほど、違和感にフタをして変化のタイミングを逃しがち。
→ 「どこも同じ」「上司が変わるまでの辛抱」と言い聞かせるうちに、「自分は本当はどうしたいか」が分からなくなっていく。 - 学習性無力感が進むと、「どうせ何をしても無駄だ」と思い込み、行動する力そのものが弱っていく。
→ 改善提案が通らない経験が続くほど、「何も言わないほうが楽」というモードに入り、自分の市場価値の更新が止まってしまう。 - 本当のリスクは、「上司が無能なこと」ではなく、その環境に慣れるあいだに市場価値が静かに腐っていくこと。
→ 上司の問題だけに目を向けず、「今の自分は社外からどう見えるか?」を時々確認しておくことが、市場価値を守る小さな一歩になります。
学習性無力感がこわいのは、「動けない自分」を責め続けてしまうことだと思います。
でも実際は、いきなり大きな決断をするよりも、インプットの質と量を少しずつ増やしていくほうが、ずっと現実的でした。
私も、「上司の機嫌で振り回されない働き方」を考えるヒントの多くを、本からもらってきました。
忙しくてもスキマ時間で読みやすいように、私は Kindle Unlimited を“いつでも開ける本棚”のような感覚で持っています。
戦わずに勝つ唯一の“復讐”は自分の市場価値を知ること

「じゃあ、私はどうしたらいいんだろう?」
正直に言うと、私は長いあいだ、何もしませんでした。
ただ上司にモヤモヤしながら、残業で帳尻を合わせて、「今日も何とか乗り切った」という感覚だけで日々を消費していました。
でもある夜、ふと気づいたんです。
「この上司を変えようと頑張るより先に、自分の“市場価値”を知るほうが先じゃないか」
そこから、ようやく発想が変わりました。
上司を変えるより先に、「自分の市場価値を知る」こと。
これが、戦わずに勝つための、唯一にして一番静かな“復讐”だと今は思っています。
『選択肢はゼロじゃない』と知った瞬間に世界が変わる
私が最初にやったことは、派手なことではありませんでした。
- 完璧な職務経歴書を書くことでも
- いきなり会社を辞める決断をすることでもなく
ただひとつ。
転職サイトに「登録だけ」してみること。
それすら、最初はなかなかできませんでした。
「裏切り者だと思われないかな」
「そこまでしていいのかな」
登録ボタンを押す指が、ほんの少し震えたのを覚えています。
それでも、一度だけ勇気を出して登録してみたら、数日後に最初のスカウトメールが届きました。
大げさかもしれませんが、そのとき本当にこう思ったんです。
「あ、世の中には“この会社以外の選択肢”がちゃんと存在しているんだ。」
頭では分かっていたはずのことが、自分宛てのメールとして届いた瞬間に、やっと実感に変わった感覚がありました。
“いつでも辞められるカード”があると上司が急に“哀れな人”に見えてくる
不思議なもので、
- 自分の市場価値のおおまかな現在地
- 他社の年収レンジやポジション
- どんな経験が評価されるのか
が少し見えてくると、職場で上司を見る目が変わり始めました。
以前の私は、
「この人の機嫌を損ねたら終わりだ」
と本気で思っていました。
だから、理不尽だと思いつつも、顔色をうかがいながら仕事をしていたところがあります。
でも、“外の選択肢”が具体的に見えたあとは、
「この人は、この会社のこのポジションの中でしか強くいられないんだな」
と、どこか冷静に見られるようになりました。
すると、
- 無茶ぶりをされても、「はいはい、そう来ましたか」と心の中で少し距離を置ける
- 理不尽な評価をされても、「ここでの評価が世界のすべてじゃない」と思い直せる
ようになっていきました。
上司が変わったわけでも、会社が劇的に良くなったわけでもありません。
変わったのは、「いつでも辞められるカードを自分が持っている」という感覚だけです。
それでも、その小さな感覚の違いが、日々のしんどさをかなり和らげてくれました。
リクナビNEXTを“逃げ道”ではなく“心の保険”として使う
じゃあ、具体的にどうやって「市場価値を知る」のか。
私が実際に使ってみて、今も“保険”として持ち続けているのが リクナビNEXT でした。
- 会員登録自体は数分で完了する
- 基本情報とこれまでの経験を入力すると、スカウトや求人のレコメンドが届く
- AIによる職務経歴書作成サポート機能があり、「自分の経験をどう言語化すればいいか」を一緒に整理してくれる
特に大きかったのは、
「今の会社の価値基準以外で、自分がどう見られるか」をざっくり知れたこと。
それだけで、
- 「今の会社にしがみつくしかない」という感覚が少し薄れ
- 「最悪、このカードを切ればいい」という心理的なセーフティネットができた
と感じています。
もちろん、登録したからといって、すぐに転職する必要はまったくありません。
“いつでも動ける状態”をつくっておくこと自体が、
今の場所で戦いすぎないための保険になる。
私は今もそのスタンスで、「登録だけは済ませた状態」を静かにキープしています。
上司を打ち負かす派手な逆転劇はありませんが、自分の市場価値を守るという意味では、これが一番現実的な“復讐”だったのかなと感じています。
登録したからといって、今すぐ転職しなければいけないわけではありません。
むしろ私は、「いつでも動ける状態」をつくっておくことが、今の場所で戦いすぎないための保険だと感じています。
もし今、「このまま10年ここにいるのはちょっと怖いかも」と少しでも思ったなら、リクナビNEXTに“登録だけ”しておくのはかなりコスパのいい一歩です。
会員登録は数分で終わるので、まずは自分の市場価値の“現在地”をざっくり確認してみてください。
- 上司を変える前に、「自分の市場価値を知る」ことが一番静かで現実的な“復讐”になる。
→ 相手をやり込めなくても、「ここだけが世界じゃない」と実感できるだけで、心の余裕が少し戻ってくる。 - 転職サイトへの「登録だけ」でも、“今の会社以外の選択肢”が自分宛てに届く体験になる。
→ 抽象的な可能性ではなく、具体的な求人やスカウトを見ることで、自分の選択肢を現実としてイメージしやすくなる。 - 「いつでも辞められるカード」があると、上司を絶対的な存在として見なくてよくなる。
→ 無茶ぶりや理不尽な評価に対しても、「ここでの評価がすべてではない」と距離を取りやすくなる。 - リクナビNEXTのようなサービスは、“逃げ道”ではなく“保険”として持っておく。
→ 今すぐ転職しなくても、登録だけで市場価値の現在地と外の基準を知り、「自分を守る準備」を静かに始められる。
まとめ|上司は変えられない。でも、働く場所は選べる
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
最後に、この記事でお伝えしたかったことを、私なりの失敗や後悔も含めて、あらためて整理しておきます。
⓵ 要点整理──この記事で伝えたかったこと
まずは、ここまでの話をぎゅっとまとめると、こんな感じになります。
- 実務を知らない上司のもとでは、残業や仕事量だけでなく、「プロとして認められない虚しさ」という見えにくいダメージが蓄積していく。
- 日本型の人事システムやプレイングマネージャー文化が、「現場を知らない管理職」を構造的に生み出している側面がある。
- 上司に合わせることに慣れすぎると、学習性無力感に近い状態になり、「どうせ何をしても変わらない」と感じて、自分の市場価値を静かにむしばんでしまう。
- 戦う相手を「上司」から「自分をすり減らす習慣」に変え、無茶ぶりから身を守る防衛線を張ることが大切。
- そして何より、「自分の市場価値を知っておくこと」こそが、戦わずに勝つための一番静かな“復讐”になる。
私自身、これに気づくまでにかなり時間がかかってしまい、その分だけ遠回りをしました。だからこそ、この記事ではその遠回りを少しでも短くしてもらえたら…という気持ちがあります。
② そのモヤモヤは、あなただけのものじゃない
「現場も知らないくせに」「話が通じない」と、心の中で毒づいてしまう自分を、責めなくて大丈夫です。
むしろ、そこまでイラッとしてしまうのは、それだけ真面目に現場とお客様に向き合ってきた証拠だと、私は思っています。
あの会議室の空気や、何度説明しても伝わらない感覚。
「なんでこっちばかり、こんなにしんどい思いをしなきゃいけないんだろう」
と、帰りの電車でため息をついた夜。
あれは、私だけのものではありませんでしたし、きっとこの記事を読んでいるあなたにも、似たような場面があるのではないでしょうか。
あのときの私は、「こんなことで悩んでいるのは自分だけだ」と思い込んでいました。
今はむしろ、「同じようにしんどさを抱えながら、それでも踏ん張っている人がたくさんいる」と分かること自体が、小さな救いになるんじゃないかと感じています。
③ 『上司中心』から『自分中心』のキャリアへ
この記事で一番お伝えしたかったのは、
「上司がどうか」よりも、「自分がどこでどう働くか」を軸にしていい。
ということです。
私たちはつい、
- 上司の理解度
- 会社の都合や部署の事情
だけを基準にキャリアを考えてしまいがちです。
そうしているうちに、いつの間にか「自分の人生の主語」が上司や会社になってしまうんですよね。
でも本来は、
- 無茶ぶりから自分を守るための防衛線を張る
- 自分の市場価値を定期的に確認しておく
この2つを意識するだけでも、少しずつキャリアの主導権が自分のほうに戻ってくると感じています。
私もまだ「完璧に自分軸です」と胸を張れるわけではありません。
それでも、昔よりは少しだけ、「自分はどうしたいか」を基準に選べる場面が増えてきました。
④ 今日からできる“3つのこと”
もし今、心のどこかで
「このまま10年ここにいたら、さすがに怖いな…」
と感じているなら、今日からできることを3つだけ挙げておきます。
どれも、小さな一歩ですが、私には効きました。
- 今感じている違和感を、紙かスマホメモにそのまま書き出してみる
「何が一番しんどいのか」「どの瞬間に心がざわつくのか」を言葉にするだけでも、頭の中のモヤが少し整理されます。 - 自分の仕事で「誇れること・工夫していること」を10個、無理やり書き出してみる
「こんな些細なこと…」と思ってもOKです。これはそのまま、あとで職務経歴書や面接で語れる“素材”になります。 - リクナビNEXTなどに“登録だけ”して、自分の市場価値のざっくりした現在地を知っておく
今すぐ転職する必要はありません。「いつでも動けるカードを1枚、ポケットに入れておく」くらいの感覚で十分です。
私も最初は、この3つさえなかなかできませんでした。
それでも、少しずつ手を動かしてみると、「何もしていない自分」から抜け出せた感覚がありました。
3つのうち、いちばんハードルが低いのは正直これだと思います。
「辞めるかどうか」はさておき、リクナビNEXTに登録だけしておくことで、いつでも動けるカードが1枚増えます。
⑤ 『場所を選ぶ権利』は、いつだってあなたの手の中にある
実務を知らない上司のもとで働いていると、
「ここで耐えるしかない」
「自分なんて、どこに行っても通用しないかもしれない」
そんな感覚に、どうしても縛られがちです。
私も長いあいだ、そう思い込んで身動きが取れませんでした。
でも本当は、
- 働く「場所」を選ぶ権利も
- 自分の時間と心を守る権利も
ずっとあなたの手の中にあります。
上司は選べないかもしれません。
それでも、「どの場所で働くか」だけは、最後まで自分で選べるはずです。
その自由を取り戻すための、最初の一歩が「自分の市場価値を知ること」だと、私は今でも信じています。
どうか、あなたが自分をすり減らしすぎてしまう前に。
完璧な一歩でなくてかまわないので、「自分を守る選択肢」を一つだけ増やしてみてください。
上司を責めたいわけではありません。
ただ、あの失敗や遠回りを経て、少しずつ働き方を整えられるようになってきたのも事実です。
この経験が、同じように悩んでいるどなたかの、小さなヒントになればうれしいです。








